【М氏の休日】
家事をひととおり済ませた夕方、M氏の妻が言った。
「富塚センセ、きょう
マムゼルでジャムセッションやるって。」
子供が生まれたらしばらくは、見るチャンスは無いかもしれない。
それに今のうちに、胎教として良いジャズを聴かせておくべきだ。
先生が実際に本番でジャズを演奏する姿をしっかり見ておかねば。
すぐ家を飛び出したM夫妻。
夕食は急きょ
吉野家の豚ショウガ焼き定食に変更。
袋井のスーパー・オカノで
ブリを買うのもしっかり忘れていなかった。
席に着くなり、
出演者の一人がノートを手に
「
今日は何(の楽器)
を?」と
M氏に尋ねてくる。
「いえ、
ただ聴きに来ただけです…。」
そうか、ココはそういう場所なのか。
客席に居るほぼ全員がプレイヤー。
観るだけの者はM夫妻のみ。
19:40、セッションがスタート。
富塚先生はピアノを担当。
うまい。
当然のことなのだが
つい「ウマい…。」
としか言えなくなるM氏。
富塚先生の教則CDに
収録されている曲が多く、
始まると「あぁ、これなら出来そうかな。」
と一瞬は思うのだが
アドリブが進むにつれ、
浅はかな勘違いだと気づかされる。
自分たちがサックス、あるいはギターや三味線のプレーヤーとして
このステージに立てる日は来るのだろうか。
そんな思いにかられるふたりを横目に、
ビールをあおってすっかり上機嫌の富塚先生。
「
パンの耳だけで生活できるぅ?」
太りますよ先生。
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